毎度当ブログを御贔屓いただきまして、誠にありがとうございます。
9月に入り、少しだけ暑さも和らいだでしょうか。
季節の進行と共に、日が短くなってきていると徐々に感じるようになりました。
夕暮れの日を眺めるような時間帯を「黄昏(たそがれ)時」と表現します。
たそがれ、とは「誰そ彼(たそかれ)」の事で、薄暗くなって人の顔の判別がつかなくなり、尋ねなければいけない時間帯の事で、「そこにいるあなたは誰ですか?」という意味の「誰そ彼」という言葉が語源となっています。
一方の夜明け前の薄明の時間帯の事は「かわたれ時」と言い、こちらも語源は「彼は誰(かはたれ)」と尋ねるような時間帯の事を指すそうですが、たそがれに比べると圧倒的に耳にする機会は少ないです。
あかしやの金と赤とがちるぞえな
かはたれの秋の光にちるぞえな
片恋の薄着のねるのわがうれひ
曳舟の水のほとりをゆくころを
やはらかな君が吐息のちるぞえな
あかしやの金と赤とがちるぞえな
私が初めて「かわたれ時」という言葉を目にしたのが、この北原白秋の「片恋」という詩です。
詩集「東京景物詩及其他」に収められた詩で、明治42年の詩作といわれていますので、白秋24歳。
夜明け前の薄明かりの中、川沿いの道をゆく白秋が、秋の季節となってアカシヤ(ハリエンジュ)の葉が舞い散る様子を、まるで「君」の吐息の様だと感じながら、片想いの恋を思う、という情景が浮かぶような、瑞々しい詩作だと思います。
皆様もこれから訪れる秋の気配を「彼は誰時」「誰そ彼時」に感じてみるのも一興かと思います。
本日ご紹介するBトレインショーティーは、パノラマカー登場という「夜明け」の少し前、まさに名鉄の「かわたれ時」に登場したこちらの車両でございます。
名古屋鉄道 5500系 マルーン+ピンク です。特別料金を要しない車両で、日本ではじめて冷房装置が搭載された車両として有名です。名鉄においては1955年に、それまでの吊り掛け駆動と呼ばれる旧式の駆動装置から、カルダン駆動を用いた低騒音で高速性能に優れた車両である5000系が投入されていました。ちょうどそのころ、国鉄では名古屋地区の電化が完了し、豊橋-大垣間で80系湘南電車を投入していました。それに対抗するように同じ湘南顔を持つ高性能車(名鉄ではSR車と呼称するそうです。)5000系が名古屋本線の特急に用いられていました。国鉄では1958年に、こだま型と呼ばれた20系電車(→のちの151系)を登場させ、冷房装置を搭載した長距離特急として好評を博していました。そこで名鉄も対抗するように冷房を搭載した車両を、という事で1959年に登場したのがこの5500系だったそうです。現在では冷房は当たり前になっていますが、当時としてはデッキで仕切られておらず頻繁に扉の開閉がある車両に冷房を搭載することは画期的な試みだったと思います。その性能おいては画期的だった5500系ですが、外観上は先に登場した5000系と比べても若干地味なデザインで名古屋鉄道のとある鉄道技術者に『夢も希望もない』とまで酷評されてしまう始末でした。個人的には車体裾の丸まった車体デザインなど、結構悪くないデザインだと思うので、そこまで言わなくても、と思ったりします。尚、酷評した技術者 白井 昭氏は後に名鉄7000系パノラマカーの製作に携わることになり、走行性能は5500系を踏襲しつつ、デザインを一新し、1962年にブルーリボン賞を受賞するに至ります。
パノラマカー登場後は、花形である特急運用を後進に譲り、急行・普通運用へと転用されることとなりました。
このBトレが纏っている塗色は、登場時の塗装で、ライトピンクとダークマルーンのツートンカラーで登場しました。その後、ストロークリーム+赤帯→スカーレット+白帯という塗装を経て、おなじみのスカーレット一色という色合いに落ち着きました。1990年代に入ると、本線区間をVVVFインバータ車が席巻。5500系はローカル区間の普通運用が主戦場となっていました。2000年代に入ると廃車となる車両が多くなりますが、2003年に最後に残った2両編成×3本に、マルーン+ピンク、ストロークリーム+赤帯、スカーレット+白帯のリバイバル塗装が施されました。2005年に全車廃車となったそうですが、この塗装のまま廃車となったのでしょうか?名鉄5500系登場時の姿をBトレで追いながら、地味ながらもパノラマカー登場の礎となり、名鉄各路線の近代化に貢献したその功績をたたえたいと思います。
↑↑ご紹介済み車両をまとめた索引ページを設けました↑↑
ご紹介順にたどりたい方はこちらから~百々怒涛のブログ~鉄道コム